ピレネー(フランス・スペイン)

 2006.8.19.-28

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国境の山脈を両側で歩く、そして長閑な田舎の風景

早朝のガバルニ村の谷間、向かって谷間の左山腹を登って山小屋を経て、奧に見える滝まで歩く、 稜線が白いのは数日前の雪

 今年の海外山行はフランス・スペイン国境のピレネー山脈です。例年お世話になっているスイスの日本人経営の 小さな旅行業者CVMの企画、参加者は私達夫婦以外は5名、うち4名は ツール・ド・モンブランでご一緒 した人達です。

 行程は南仏トゥルーズ空港に集合、ガバルに村、国境の岩障のキレット、スペインに移って 国立公園内の絶壁のハイキング、フランスに戻ってピック・ド・ミディを巡るハイキングで山行は終わり、ルルド の奇跡の水、世界遺産のミディ運河からトゥルーズ空港で解散です。


谷間の村 ガバルニ

 トゥルーズは欧州の旅客機製造会社エアバス社の本社と工場があります。空港から南西にピレネー山麓のガバルニ村 まで来る途中に面白い村を通りました。家々の戸口や窓に 手作りの人形がたくさん飾っているのです。なにか由緒があるのでしょうが個性的で観光資源になりますね。丁度 市が立っていて約10軒の店が開かれ、バームクーヘンに似た菓子屋では威勢のいい売り子が伊勢丹や小田急デパートで 売っていたと言って驚かされました。
  左:人形の村、教会(?)の門脇に並べられた人形の結婚式
  中:村の手前の渓谷にかかるナポレオン橋、ナポレオン三世に因む
  右:滝からの帰途、草原に一面に咲くクロッカス
 目的地のガバルニ村は谷の奧にあり、標高は1400m、産業は観光と牧畜です。数軒のホテルと土産物屋、1軒の小さな スーパーと観光案内所があります。標高が高く冬は雪を避けて下に降りるそうです。
 ハイキングは樹林帯の山腹を登れば緩やかな草原になり牛が放牧されています。明日行く岩壁のキレットを望遠し ながらエスブジェット小屋まで歩き、昼食後更に奧に下って滝の手前のホテルに出ます。 ホテルの庭は大勢の観光客でした。村から滝まで1本の道があり、 村からホテルまで馬やロバに乗ってくることも出来ます。帰路は途中から沢を越えて脇道の草原を通りました。 一面に咲くクロッカスが見事でした。いろいろな花もきれいですが、馬糞、牛糞も山のつき合い(?)のうちです。


国境の岩障のキレット、プレッシュ・ド・ロランド

 国境のピレネー山脈に岩の屏風を連ねた場所があり、1ケ所四角に切り取られたようなところがあります。 窓と呼んでいます。この窓までのハイキングが今回の山行の大きな目的です。

 ガバルニ村から隣の谷間を車で上って標高2200mの駐車場まで登り、後はやや長い歩きです。広い道を約30分 歩くと鞍部につき、ここが国境です。国境と言っても岩に十字の印と番号を打っただけです。その先はスペインです。 ここから緩やかな山腹のザレ場や草原の中の岩、石の道が続きます。所々に大きな深い穴がありますが氷河が作った ものだそうです。一個所だけ、滝の流れる岩場を鎖を頼りに通過します。瀧の先では道脇の岩の表面に化石が見られ、 かっては海だったそうです。滝場を通過し、低い尾根を越えるとサラデ小屋が見えます。


前日、ガバルニ村のハイキングのとき山腹から望遠した国境の窓

小屋から見た「窓」、右下は登山路で数人のハイカーが見える。右から迂回して左上の岩棚に達する
←「窓」直下のサラデ小屋

窓の手前の岩棚から、ガイドと私達、窓の下縁に大勢の人の姿が見られるので窓の大きさが分かる
 サラデ小屋からの道はモレーン(氷河の堆積物)で 出来ており、歩きにくいザレ場です。岩棚と窓の間には砂利混じり の氷床があって、溶けた水が流れており、大きな氷の割れ目もあってガイドの説明では氷河の終焉だそうです。
 窓の向こうはスペイン領で荒涼とした岩山が続いています(左写真)。ガイドが持ってきた望遠鏡で探すと岩の窪みの 僅かな茂みの中に野生の鹿がいます。遙か先の丘の上に移動する羊の群れが見えました。
 ここでは日本人が珍しいのか、何処から来たか、とよく尋ねられました。同じ道を辿って戻りました。今日はかなり 歩いた感じです。

スペイン・オルデッサ国立公園、絶壁のハイキング

トルラ村の繁華街、窓の花はアルプスと同じ絶壁のハイキング、中央に私達のグループ、右下も絶壁 帰路に見た絶壁、歩いたのは上から2番目か3番目の岩棚らしい
 3泊したガバルニ村からスペインの田舎村トルラに移ります。大きく迂回して延々と続く放牧の中をピレネーの峠と 国境を越えます。 途中スペイン橋、ガウベ湖などの景勝地に寄りましたがここでは割愛します。
 この村は帰国後地図を見ていて気づいたのですが前日歩いた「窓」から直線距離で約10kmでした。荒涼たる山稜 から緑豊かな谷間になったのです。
 村は傾斜地にありホテルから1段上がった道の両側が小さな繁華街でバーや土産物店です。落ち着いたただずまいで、 ベンチに老人が集まって話し込んでいる姿は日本の下町の雰囲気です。ホテルの夕食は20:30から、スペインの 夕食が遅いのはスペイン人が宵っぱりと、今まで錯覚しいました。実は夜明けが遅く、日の暮れが遅いだけの単純なこと でした。

 翌朝起きた時はガスが流れていました。夜中に小雨が降ったようです。 国立公園にはシーズン中は大型の専用バスで入ります。広い駐車場が標高1700-800mのところにあり、 その先に草原が続きます。 石造りのトイレが2ケ所、茶店と案内所が各1ケ所あります。左右は急峻の山脈で広い谷間が奧に続きます。 ツアー・リーダーの柿沼さんが案内所で聞きましたら前夜の雨で滑りやすくなっており、予定を変更して谷間の奧に 向かって左側の山を登ることにしました。谷の奧に通じる主道から別れ山腹の道を登ります。約1時間半で樹林帯 を越えて絶壁の回廊に出ます。ここから起伏はありますが細い歩道を約2時間歩きます。途中1ケ所だけ緊張する ところもありましたが「下ノ廊下」よりは歩きやすい道です。ガスがかかって遠景は見えませんが高いところを歩く ので雄大な気分になり、ハイキングを十分楽しめました。駐車場には大勢の人がいましたが山道で見かけた人は 10人程度でしょうか。最後は下り道で主道に出ます。このツアーでは昼はピクニックです。バン、チーズ、ハム、果物 缶詰などをスーパーで買って手分けして担ぎ、沢沿いの草原でシートを敷いて昼食です。
 世界遺産のペルデュ山を見る 予定でしたがガスが流れ諦めて道を引き返しました。草原の茶店でビールで一休み後、バスで戻りました。 上では雨の心配をしていましたが下界では晴れていました。


オッソー山の山麓を巡るハイキング

 スペインから戻りオッソー山の山麓のハイキングです。オッソー山はピレネーのマッターホルンと言われる 急峻の山で、これを見ながらのハイキングを楽しみにしていたのですが、残念ながら雨で山も見えず ただ黙々と稜線まで見渡せる放牧地を歩きました。雨に凍えてポンピエ小屋にやっと着きました。
 右下の写真は翌朝の歩行の途中、オッソー山と反対側の谷間で一瞬の晴れ間を撮ったものです。こういう景観 を眺めながらのハイキングでしたらもっと楽しかったでしょう。
 ↑翌朝の晴れ間、中央の柱は案内標識
←左:雨の中を行く、前方の鞍部を越えると小屋が見える
←中:小屋を振り返る、中腹に昨日歩いた道が微かに見える
 フランスでは山小屋は山岳会が建て、募集した管理人が人を雇って運営するそうです。小屋のサービスは山岳会で 一定の水準を保つようにしているそうです。アルコール類の値段も地上と変わりありません。缶ビールを頼めば 栓を抜いてコップに半分注いで出すか、最低限コップと一緒に出します。(フランス・アルプス以来、自宅では缶ビール は必ずコップに注いで飲むようにしています)。トイレは水洗です。
 今夜のメニューを紹介しましょう。飲み物はコーヒー、紅茶、ココアから一つ選択、 暖かいスープ(具をザクザクと切ったワイルドなスープ)、サラダ(3種類の豆にピーマンなどの野菜、 レタスの上にトマトを薄く切ってドレッシングをかけた手の込んでだサラダ) 、牛ステーキ、デザートです。サラダ以降は大皿に盛ってテーブルに置かれ皆さんの好みで取り分けます。これに赤ワイン を注文しましたので天上の楽園です。(日本の山小屋と敢えて比較はしませんが)

岩場に住むマーモット山を下る私達と登る羊の群れ 下山後、やっと姿を現したオッソー山、逆光で手前は森と山が真っ黒。チーズの熟成場、 毎日ひっくり返しながら塩をすり込む

 翌朝は曇り、雨も心配でした。下山の途中に沼があり、その先が草原と岩場になります。ここにマーモットの群れが 住んでいました。 沼縁の草原で餌を取り、危険になれば岩場の穴に逃げられる絶好の住み処です。
 その後、下る私達と羊の群が行き違いました。この羊と羊乳から作られるチーズのことを書きましょう。この地域は羊 のチーズの発祥の地と言われ、11軒の養羊家があって相談して放牧を決めているそうです。朝牧童と犬が羊を山の 上の方に連れて行って放牧し、夕方集めて搾乳して、翌朝もう一度搾乳して放牧する作業を繰り返します。急斜面もあり 群の中には岩場で転んだのでしょうか足を引きずり鳴いて群の後を追う羊もいます。初めて見ましたが、牧童が太い注射針 を持っていて、びっこを引く羊を手当して行きます。傷ついて群からはぐれた羊には、鷹が数十羽の群で襲うそうですから、 羊にとっては生命を、牧童にとっては財産として大切にしているのです。
 約500頭の1日の羊乳から約4gkのチーズが出来ます。この谷間の羊乳チーズを一手に作っている家を訪問しました。 この家は奥さんがレストランを経営、旦那さんがチーズ作りなのです。斜面に立てられたレストランの横を下ると地下 (実は1階)は天井が高いチーズの熟成室で職人は4kgほどの円盤状のチーズを1枚いちまい、ひっくり返しながら塩を すり込んでいました。若いチーズは金網の上で、熟成が進むと木の板の上で熟成されます。板に触りますと湿っていました。 文字通り手作りのチーズですね。実に貴重な経験でした。
 このレストランで食事中、隣の卓の夫婦が円盤状のままのチーズ(約4kg)を買って、自慢そうに私達に見せていました。 私も真似して1/4塊ほど買いました。

付録・・・ルルドの奇跡の水と世界遺産のミディ運河

 オッソー山麓からルルドに行きます。ここは奇跡の水を求め、夜のミサを受けに春から秋まで毎日まいにち 数千人のカトリック信者が訪れます。土産物店はマリア様の像など宗教一色、ホテルの夕食のメニューも1種類で 夜のミサに合わせて時間が設定されています。旗を立てて団体で来る信者団や、車椅子やベットで運ばれる信者も 少なくなく、それを助けるボランティアも沢山います。規模と信仰心では長野善光寺も及びません。
 私は宗教心の薄い(というよりもない)人間なのでここの見聞は脅威でした。信仰に政治が絡んだら恐ろしい ことになります。幸いに西欧は30年戦争以後、長い歳月をかけて政治から宗教を隔離しました。ですからこの夜、 脅威と感じましたが距離を置いた感じです。一方中東では政治と宗教は分離されていませんから日本人には理解 出来ないとやや暗澹な気持ちです。ルルドの夜、おびただしい蝋燭の炎を眺めながら余計なことを思って しまいました。

ルルド、蝋燭を掲げてミサ、手ぶれです閘門を通過した若い男女の船 老夫婦の船、二人でロープで船を岸に固定している、固定されてから水門を開く

 翌日は空港に行く前の時間を利用して世界遺産のミディ運河を見に行きました。地中海と大西洋を結ぶ運河で 水位差を調整するため多数の閘門があります。現在は観光用に使われており、船を借りてゆっくり運河の船旅 を楽しむことが出来ます。
 たまたま私達が閘門で待っていた時に、ドイツからの若い男女9人のグループが元気よく通過してゆました。 船室の窓枠にはワインの瓶がずらりと並んでいました。
 続いて来た船はやや小さく老夫婦二人だけです。丁度昼食中に閘門に着いたようで船室に食べかけの皿が2枚ありました。 夫人の操舵はおぼつかなく蛇行します。上半身裸の亭主が棒を持って岸につっかいをしながら船を進めます。 無事橋を潜り閘門に入ると亭主はカメラを持って船と夫人を撮影、その対岸に私達がいて両手を挙げたりして 囃しました。亭主は帽子を取って深々とお辞儀をして船に戻りました。私達も拍手喝采で応えました。 このユーモアと、夫婦二人だけのゆっくりした船旅は日本人には未だ出来ないナーと感じました。

 運河の周囲は見渡す限りヒマワリ畑や刈り取られたトウモロコシ畑です。フランスが農業大国であることを 思い出しました。

 最後に、出会った花の一覧です。


 上段左から、ジェラニュームサンドレ(ピレネー固有種)、ユーゼン菊、スペインの太陽、シルバーアザミ、 虫取りスミレ、貴婦人の靴、あとは分かりません。
(ピレネー 終わり)